なぜ人の出産は苦しいのか?
そして、なぜ人は二足歩行をするのか?
また面白い本に出会いました。
『迷惑な進化ー病気の遺伝子はどこから来たのか』
身近な病気から、世界的な感染症、そして出産まで、
進化学の観点から独特の視点で切り込んでいます。
著者はニューヨークの進化医学の若手研究者であるシャロン・モアレム。
科学書にありがちな難しくて眠くなるような表現はなく、
テンポよく話が進んでいき、面白いプレゼンテーションを見ているかのよう。
話題は多岐にわたるので全て紹介できませんが、
例えば糖尿病はなぜ今世界中で患者数が爆発的に増えているのか。
それは地球と人類の歴史を紐解いていくことでわかるのです。
いわゆる「ぶっとび理論」ではなく、しっかり科学的にレビューされているのでご心配なく。
そこはさすが科学者。
そして今話題の感染症。
マラリアに感染するとグッタリして動けなくなるそうですが、
新型ではないコロナウイルスなどが原因の「普通の風邪」では多少しんどくても人は動きまわります。
それにも「進化」の観点から考えられる理由がありました。
新型コロナウイルスへの対応もヒントになりそうです。
次にやっぱり出てきました。
私たちのDNAの話。
私たちの身体を作るための遺伝情報は、DNAの中のごく一部であり、その他の部分は以前は「ジャンクDNA」と言われ、不要なものと言われていました。
それら「ジャンク」と思われていたものは、実は祖先が感染したウイルスの遺伝情報が含まれていることがわかってきたのです。
つまり、私たち動物(おそらく植物も)の進化にはウイルスが関わっているという事です。
それらの話はこちらの本も面白いのでおススメ。
進化論に少し詳しい人は、ダーウィン進化論の他に、ラマルクの「獲得形質遺伝(用不用説)」というものがあるのを知っているかもしれません。
キリンの首が長いのは、
高いところの葉っぱを食べた結果首が伸び、それが子どもにも遺伝したという説。
産まれてから獲得した特徴(形質)が子どもに遺伝するという説で、現代では否定されています。
今の20代30代がスマホで猫背になっているからと言って、産まれてくる子どもが生まれつき猫背にはなりません。
しかし、自然選択説(ダーウィンのやつ)と偶然任せの突然変異だけでは、人を含めた生物の進化のスピードを説明することができません。
獲得形質遺伝ではありませんが、現代の環境に合うように短期間で進化をしていることが明らかになりつつあります。
この本では、ラマルクさんの当時のちょっと悲しい扱われ方も紹介されており、「世界はいつの時代も変わらない」と思いました。
さて、いろいろな病気の話、遺伝子の話と続き、
この本のメディカルミステリーツアーは最後、最も身近な話題にうつります。
なぜ人は二足歩行をするのか。
なぜ人の出産は苦しいのか。
人は哺乳類の中でダントツに出産が苦しいらしい。
他の動物がどれだけ苦しいか知ってんのか?と思うけど、そこは置いといて、
確かに「出産」は子孫を残すことであり、「種の維持と繁栄」という生物学的観点からとても大切なイベントであり、それが苦しいというのは「種の繁栄」にとって不利になります。
なのになぜ人の出産は何時間も苦しい思いをするのか。
それは「二足歩行」と関係しています。
では、なぜ人は二足歩行をするのか・・・・
二足歩行に関する説が2つ紹介されています。
従来の説「サバンナ説」と、もう一つ・・・・
ほぉ~なるほどねぇ。
確かに。
本の最後では筆者(訳者も)のテンポ良い文章と共に、いくつかの点が線になってつながります。
どんな内容かというと・・・・
ぜひ自分で読んでみてください。
この本の中に一つ気になることがありました。
「早産が危ぶまれる時、胎児の肺の成長を促す薬ベタメタゾンを使う。ベタメタゾンのおかげで早産時の救命率は劇的に上がった。しかし、ベタメタゾンを投与された児は、将来、多動(ADHD)になることが多いことがわかってきたのだ。」
私の次女はベタメタゾンを使いました。そのおかげで呼吸器なしで呼吸ができています。
さて、将来どうなるか・・。
今まで感染症などでグッタリ動かなかったことも多かった娘。
動くならそれが激しくても良いじゃないか。